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高松高等裁判所 昭和46年(う)244号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人らをそれぞれ罰金五〇、〇〇〇円に処する。

被告人らにおいて右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人らに対し、公職選挙法二五二条一項に規定する選挙権および被選挙権を有しない期間を二年に短縮する。

原審における訴訟費用は全部被告人らの連帯負担とする。

理由

一、〈略〉

二、まず、原審における訴訟手続につき職権をもつて調査するに、本件起訴状の公訴事実は、被告人ら六名が共謀のうえ、昭和四四年一〇月四日をもつて任期満了となる徳島県知事の任期満了前九〇日以内である同年八月一〇日、徳島県三好郡三野町大字芝生一、二三二番地三野中学校体育館において、同県知事選挙に立候補しようとする武市恭信を激励支持するための後援団体である三野町武市恭信後援会臨時大会を開催し、同会場において別紙一覧表記載のとおり同大会に出席したその選挙区内居住の九六名に対し、砂糖約1.5キログラム入り紙箱一個、清酒三〇〇ミリリットル入り瓶一本およびつきだし二袋をビニール風呂敷で包んだ物品一個宛(時価約四〇〇円相当)を供与した、というのであり、その罪名、罰条として、公職選挙法違反、同法第一九九条の五第二項、第二四九条の五第二項が記載されているところ、右公訴事実に対し、原判決は、その罪となるべき事実において、被告人辺見勇吉、同芝藤晄禧、同藤岡巌、同田中春夫、同田中虎雄の五名は前記三野町武市恭信後援会の役職員であり、被告人宮内茂美はその構成員であるとしたうえ、昭和四四年八月四日武大神社において右被告人五名のほか二十数名の常任幹事以上の役員会が開催されて同後援会の臨時大会の開催とその出席者に対する砂糖、清酒等の供与が決議共謀され、右被告人宮内は連絡係として右役員会の設営等に従事するとともに同会にも出席して意思相通じ、こうして右決議に基づき、徳島県知事の任期満了前九〇日以内である同月一〇日、前記三野中学校体育館において三野町武市恭信後援会臨時大会が開催されて、別紙一覧表記載のとおり、その選挙区内居住の九六名に対して前記物品一個宛を供与した旨認定し、その法令の適用において、被告人らの所為が公職選挙法第一九九条の五第二項に違反し、同法第二四九条の五第三項に該当すると判示しているのであるから、原裁判所は、訴因、罰条の変更手続をとることなく、公訴事実の訴因と異る事実を認定し、それに対する罰条を適用していることが明らかといわなければならない。

ところで、公職選挙法第二四九条の五第二項と同条第三項とは、その構成要件が、いずれも同法第一九九条の五第二項の違反行為を前提としている点で共通するほか、その刑罰も等しく五、〇〇〇円以上五〇、〇〇〇円以下の罰金と定められていて、軽重の差が認められないのであるが、前者は、右第一九九条の五第二項所定の饗応接待、金銭もしくは記念品その他の物品供与の行為を個人(自然人)がした場合の罰則であるのに対し、後者は、会社その他の法人または団体がそれらの行為をした場合において、その違反行為に関与した者(自然人)を罰する規定であつて、その処罰の形式が異なるうえ、特に後者の場合は、右会社または団体の役職員または構成員に対する代罰規定の形をとつている特殊性にかんがみると、その構成要件の相異はおのずから明らかなものがあるといわなければならない。また、訴因の記載自体を考えてみても、もし、後者で訴追するとすれば、被告人(違反行為関与者)がいずれの会社または団体のいかなる役職員であるか、あるいは構成員であるかを明示する必要があるのであつて、その構成要件の相異に由来する訴因の違いがこのように顕著なものであることを考えるならば、公訴事実にある前者の訴因ならびに罰条を変更することなく、判決においていきなり後者の事実を認定することは不意打ちの感を免れず、審判の対象を明確にし、かつ、被告人の防禦権を保障しようとする訴因制度の趣旨に反して許されないものと解するのが相当である。

もつとも、記録によれば、被告人らおよび弁護人は、原審において、前記砂糖、清酒等の供与は、三野町武市恭信後援会の役員の多数決によつて決議実行したものであつて、宮内を除く被告人ら五名は団体の機関として関与したにすぎない旨主張しているのであるが、同時に、弁護人は、右供与の行為は前示第一九九条の五第二項の違反行為にあたらないとか可罰的違法性がないと主張してその罪責を争つているのであつて、右被告人らが、同後援会の役職員または構成員としてその違反行為関与者としての罪責を自認しているものでないことは明らかであり、被告人側の右のような防禦方法にかんがみても、訴因、罰条の変更なくして後者の認定をすることが、被告人側の防禦に実質的に不利益を生ずるおそれのあることは否めないところである。

以上を要するに、原裁判所は、公訴事実にある公職選挙法第二四九条の五第二項の訴因に対して、訴因、罰条の変更が必要であるにもかかわらず、その手続を履践しないで同条第三項の事実を認定しているのであるから、右は刑訴法第三一二条に違反し、この訴訟手続の違反が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、弁護人、検察官の各控訴趣意について判断するまでもなく、原判決はこの点で破棄を免れない。

三以下〈略〉

(木原繁季 深田源次 山口茂一)

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